←to top
引っこ抜き可。順番・人称・口調・句読点などの変更も可。

好きな部分を好きな長さだけ持っていって下さい。句読点や文書の固まり等は一切気にしなくて結構です。
抜き出し例→「何度思っただろう。あの人を思う度に、」
抜き出し例→「身を焦がすこの思いを胸の内に密かに飼い馴らそう」
題名にしても文章中に組み込んでもとにかく二次配布さえしなければOKです。









罪深い、子


「罪深い、子」

何度思っただろう。あの人を思う度に、あの人に会う度に。身を焦がすこの思いを胸の内に密かに飼い馴ら そうと必死になる度に頭をよぎる言葉。




「罪深い、子」

あの人を思う。思ってしまう。止められない。
私の生活の全てがあの人に繋がっていて、私はあの人の面影無しに生活することも出来ず。この道にも、こ の店にも、私が持つこのマフラーにも、あの人との余りに多くの思い出の欠片が潜んでしまっていて。
ふと思い出すのはあの人と交わした言葉たち。あの人と交わす言葉はどれもこれも輝いていて、私がすがり ついてしまうのを私は止めることが出来ない。




「罪深い、子」

嫉妬した。
私に嫉妬という思いを知らせたのはあの人。知りたくもなかった感情を私は知り、またひとつ醜い大人への 階段を登らざるを得なかった。登った階段には終わりなどなくて、まだまだ続く見えない上に眩暈を起こす と共に、近い将来私はそこを登り続けることになるのだろうときつくきつく唇を噛む。




「罪深い、子」

あの人は優しかった。私にも、誰にでも。
それでも私は“特別”を感じとってしまった。
あの人は当然私の中の多くの“特別”にはもちろん、たったひとつの“特別”の場にまで踏み込んでいて、 私の中では揺るぎない、支えの根本のようなものにもなっていた。




「罪深い、子」

取られてしまった私のあの人。
あの人が幸せならいい。あの人が幸せならいい。あの人が幸せならいい。
私は私を騙し続けなければならなかった。それは私があの人の中の私の位置を守るためのもの。私が私を騙 すことで、たったそれだけのことであの位置を守れるのならば容易いことだった。
容易いことだと信じたかった。




「罪深い、子」

あの人の他にも私を思ってくれる人はいた。それでも私はあの人を選ぼうとしてしまう。
ああなんておろかしく、それでいてああなんてふもうな。




「罪深い、子」

他人(ひと)はこれを恋と呼んだ。
他人(ひと)はこれを愛と呼んだ。
私はこれを執着と呼んだ。




「罪深い、子」

何も知らないあの人の横に何も知らない顔をして立つ私に気づく人はいるだろうか。




「罪深い、子」

何度も思った。
あの人が幸せならいい。あの人が幸せならいい。あの人が幸せならいい。
思おうと思った。事実、私は少しの間だけ私を騙すことに成功した。騙されている私は平穏の国の住人。永 くは住めないその国の住人。




「罪深い、子」

私はあの人から離れられない。あの人は私が何をしても離れてゆかなかった。
私が何をしても。それを包み込んだ。
私はそれに溺れた。溺れることをこそ望んだ。
このままぬるま湯の中、まどろんでいたい。




「罪深い、子」

苦しい。苦しい苦しい苦しい。くるしくてたまらない。




「罪深い、子」

それでもあの人に会えたことをこれっぽっちも後悔していない私。
あの人に出会えた私は出会えなかった私よりも幸せだ。…幸せなのだ。




「罪深い、子」

罪は罪と知覚せねば罪とはならない。ならばこの思いもひとり身の内に留め小さく小さく誰の目にも触れぬ ようにすれば良いのではないか?
無理を言うのはその罪の意識ゆえ。




「罪深い、子」

誰にも吐き出せぬ思いを静かに涙として外に出す日、私は私に甘えを許す。
この日だけは、泣くことを許しましょう。私のために泣く私を私は許しましょう。




「罪深い、子」

私が望むのは繋がることなどではなくて共にあること。
隣で笑うこと、隣で歌うこと、隣で寄り添うこと、そして隣で泣くこと。




「罪深い、子」

私の為に笑って下さい。
私の為に紡いで下さい。
私の為に怒って下さい。
私の為に悩んで下さい。
私の為に泣いて下さい。
私の為だけに、私の為だけに。




「罪深い、子」

ああ、ついに願ってしまった。口に出してしまった。




「罪深い、子」

ああ、わたしがこわれてゆく。
こわれてはいけない、こわれてはあのひとにめいわくがかかってしまう。
おねがいだからきづかないで。(お願いだから気づいて)
おねがいだからほうっておいて。(お願いだから止めて)




「罪深い、子」

わたしの幸せは、どこ?




「罪深い、子」

誰かに聞いて欲しくて。
でも誰にも言えなくて。
身の内に潜む情は今も私の中をぐるぐるぐるぐる廻り続ける。
それを私が望むとも。それを私が望まざるとも。




「罪深い、子」

ならばこの罪にいついつまでも浸っていれば良いのでしょう?
そう言ったのは、誰?




「罪深い、子」

私は私。
あの人はあの人。
ねぇ、わかりきったことを。
でもだからこそ、難しい。




「罪深い、子」

だれかわたしをさばいてください。




←to top   ←to title























inserted by FC2 system